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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)587号 判決 1967年2月02日

上告人 神山軍治(仮名)

被上告人 神山晴代(仮名)

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人柴田治の上告理由について。

民法七五四条にいう「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続しているとしても、同条の規定により、夫婦間の契約を取り消すことは許されないものと解するのが相当である。ところで、原審の所論事実認定は挙示の証拠によつて肯認することができ、原審の確定したところによれば、上告人被上告人は夫婦であるが、上告人が被上告人との間で締結した本件贈与契約を取り消す旨の意思表示をしたのは、右当事者間の夫婦関係がすでに破綻したのちであるというのであるから、右意思表示は無効であるとした原審の判断は正当であり、原判決になんら所論の違法はない。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、原審で主張しない事実を前提とし、あるいは独自の見解に立つて原判決を攻撃するに帰すから、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

上告理由

第一点、第二点(省略)

第三点 原判決は民法第七五四条の適用を誤つた違法がある。

上告人の被上告人に対する昭和三〇年八月四日の贈与は、乙一号証覚書の前文の通り上告人と被上告人は相互に人格を尊重し、夫婦の道にもとることなく終生円満に家庭を営むことを前提としてし老後の楽しみとしてしたものであつて、仲裁者の塩田キミヱは若し別れる場合には一切を返すという位の気持で話をしなさいと言つた位であるのに(原告の被控訴人第一回尋問調書第四四項)被上告人は贈与のあつた時から間もなく○○○○の立木を一五万円で売却して了つたのであつて、上告人がその事を知つた頃から夫婦間には再び破綻を来したのであつて、贈与取消の意思表示は後れたけれども終生夫婦円満を条件とし老後の楽しみにとしてした贈与は双方から離婚の訴をするようになつた時は取消すことが出来ると信ずる。然るに原判決は民法第七四五条の法意はそれを許さないとせられたのである。

一、期日呼出状 省略

二、訴状 省略

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